いわゆる乳腺症
乳腺のしこり、痛み、乳頭からの分泌物などが見られる良性疾患です。病気ではありませんが、画像検査で指摘され、時にがんとの鑑別が必要になることがあります。
一般に、30~50歳くらいの女性に多く見られ、閉経後からは減少します。
※2018年版の乳癌取り扱い規約より乳腺症は病気ではないため、いわゆる乳腺症と表記されるようになりましたが、当HPでは、従来通り乳腺症としております。
症状
乳腺症の主な症状としては、以下のようなものが挙げられます。
- 乳房、乳房まわりの痛みや違和感
- しこり
- 乳頭からの分泌
乳腺症の主な症状の多くは年齢とともに自然に軽快します。
原因
月経、妊娠、閉経などに伴うホルモバランスの変化の影響を受け、乳腺が大きくなったり小さくなったりを繰り返した結果、“乳腺が肥大した部位”と“乳腺が退縮した部位”が混在して乳腺症になるものと考えられます。
乳腺症は乳がんになる?
乳腺症が進行して乳がんになる、ということはありません。
しかし乳がんと似た症状を持つことから、その鑑別が重要になります。「乳腺症だろうから大丈夫」という自己判断は禁物です。
乳腺症の症状緩和のために—食事改善
カフェイン、脂肪、ニコチンは乳房痛の原因と考えられています。
カフェインや脂肪摂取制限、禁煙によって症状緩和が期待できます。
また、ストレスの解消や、十分な睡眠も症状を緩和します。
嚢胞(のうほう)
分泌物などの液体貯留により乳管が袋状に拡張した病変です。乳腺症によく見られます。
乳房超音波検査やマンモグラフィ検査で偶然見つかることが少なくありません。
乳腺嚢胞の症状や痛み
以下のような症状が見られることがありますが、多くの場合は無症状です。乳管に溜まった分泌物なので、しこりはやわらかいです。まれに乳房の張りや、しこりによる圧迫感を感じたりすることがあります。
- やわらかなしこり
- 乳房の張り
- 圧迫感
乳腺嚢胞は癌化する?
乳腺嚢胞に溜まる水分は、常にその量が増えたり減ったりしており、嚢胞が大きくなったからといって悪化していることにはなりません。また良性であり、癌化することはありません。
ただし、嚢胞内に腫瘍成分をみとめるケースでは、可能性としては低いものの嚢胞内がんが見つかることがあります。嚢胞内の水分を採取し、細胞診や針生検を行って診断します。
乳腺嚢胞の治療法
現在のところ、嚢胞そのものを消滅させる薬はなく、定期的に経過観察を行います。
乳腺炎
急性乳腺炎と慢性乳腺炎
乳腺炎とは、その名の通り乳汁を分泌する乳腺に起こる炎症です。急性乳腺炎と慢性乳腺炎に大別され、更に急性乳腺炎は、うっ滞性乳腺炎と、そこに細菌感染が加わった化膿性乳腺炎に分類できます。
慢性乳腺炎は再発性・難治性で治療に難渋することが多い乳輪下膿瘍、乳がんと紛らわしい腫瘤を形成する肉芽腫性乳腺炎などがあります。
症状
急性乳腺炎の主な症状は、以下の通りです。化膿性乳腺炎になった場合には、38度以上の高熱、悪寒戦慄などの症状も現れます。
- 乳房全体の腫れ、しこり
- 乳房の痛み
- 乳房の赤み、熱感
うっ滞性乳腺炎
乳管が十分に開いていない、下着などによる乳房の圧迫、赤ちゃんが母乳を飲む量が少ないといったことが原因になります。また、授乳の間隔が一定でないことで母乳が溜まり、炎症につながることもあります。初産婦の産褥期に発症し、軽度のものを含めると10〜20%の頻度で経験されていると言われています。
化膿性乳腺炎
うっ滞性乳腺炎によって乳腺に母乳が溜まり、その状態が続く(半日~1日ほど)と、乳頭から侵入した細菌によって感染を起こし、化膿することがあります。
起炎菌は黄色ブドウ球菌、連鎖球菌が多く、その他に腸球菌、大腸菌などがあります。
乳輪下膿瘍
乳輪下または乳輪周囲の皮下に発症する炎症性疾患です。20〜30歳代に好発し、陥没乳頭に併発することが多いです。主乳管が閉塞し、これに逆行性細菌感染が起こって膿が溜まったり(膿瘍形成)、皮膚に穴があいて膿があふれてきたりします(瘻孔形成)。
喫煙、肥満、糖尿病、陥没乳頭がリスク因子とされています。
乳輪下膿瘍は一旦治癒したように見えてもその後も炎症を繰り返すことが多いです。
乳腺炎の治療
うっ滞性乳腺炎の治療
乳房マッサージ、搾乳で乳汁分泌の促進を図ることが大切です。乳房を冷やすことで乳汁分泌を抑えることも必要です(冷罨法)。
痛みに対しては消炎鎮痛剤(痛み止め)を内服し、腫脹・発赤を伴う場合は感染予防目的に抗菌薬(化膿止め)を内服していただきます。
化膿性乳腺炎の治療
膿瘍を形成していない時期は抗菌薬(化膿止め)、消炎鎮痛薬(痛み止め)の投与が必要となります。膿瘍を形成する時期は薬剤による治療の他に外科的治療が必要となります。
膿瘍が限局している時、超音波ガイド下での穿刺吸引や、ドレナージが不良の際は膿がたまらないようにチューブを留置します。膿瘍が広範囲に及ぶ場合は切開排膿術を行います。
(産褥期乳腺炎の場合は安易に切開排膿すると乳汁漏になり、傷が治りにくくなるため、最低限の切開を心がけます)
乳輪下膿瘍の治療
膿瘍が小さく、炎症が主体である場合、まず抗菌薬投与で保存的に治療を目指しますが、効果が薄い場合は切開排膿を行います。何度も再発を繰り返す場合は、膿瘍腔・瘻孔、周囲肉芽組織とともに責任乳管を合わせて切除し、陥没乳頭があれば、同時に陥没乳頭形成術を行います。
実は形成外科医は病巣切除(原因となっている部分の切除)を、乳腺外科は陥没乳頭形成術を苦手にしていることが非常に多いです。当院院長は両方に精通しておりますので、ぜひご相談下さい。
乳腺線維腫
乳腺に生じる良性腫瘍の中でもっともよく見られるのが乳腺線維腫です。15〜35歳の女性に最も多く認められます。通常は2〜3㎝になると増殖は止まり、16〜59%は自然退縮していきます。
経口避妊薬、妊娠または他のホルモンの刺激の影響を受けてサイズが増大する傾向があります。線維腺腫に癌化が起こる確率は0.02%と非常にまれです。
症状
乳腺線維腫の主症状は、しこりの触知です。片側または両側の乳房に、以下のようなしこりが1~複数個生じます。しこりの特徴は以下の通りです。
- 周囲組織との境界がはっきりしている
- 周囲組織との癒着がないため押すと場所が動く
- 弾力があり、痛みはない
- 通常、1~3㎝程度
線維腺腫の疑いがある場合の
経過観察~検査・手術
細胞診や針生検を行って乳腺線維腫の診断がつけば、経過観察とします。経過観察の期間は、半年~1年に1度、超音波検査を行い、大きさを確認します。
針生検で線維腺腫と診断されていても、3cmを超えている場合は葉状腫瘍の可能性も否定はできないので、摘出生検をお勧めします。また、経過観察中に増大傾向があれば手術をご提案することがございます。
葉状腫瘍
上皮細胞とその下の結締組織が混合して腫瘍となったものを指します。良性(50%以上)、境界型、悪性が存在します。全乳房腫瘍の1%未満です。
年代別では40代にもっとも多く見られ、その次に30代と50代が続きます。
葉状腫瘍の症状や痛み
以下のような特徴をもったしこりが主症状となります。しこりによって皮膚が薄くなり、皮膚表面に潰瘍を形成することもあります。
- まわりの組織との境界が明瞭で痛みがない
- 多結節性である。(触診では結節がはっきりしないことも多い)
- 表面は平滑で可動性がある。
- 5㎝を超えることもある
原因
現在のところ、はっきりした原因は分かっていません。
急激に大きくなる場合、再発を繰り返す場合に注意
しこりが急激に大きくなった場合には、悪性の葉状腫瘍が疑われます。
また、良性のものであっても、再発を繰り返していると悪性の度合いが増すことがあります。悪性葉状腫瘍の遠隔転移は13〜40%で肺に最も多く、5年生存率は60〜80%と報告されており、慎重な診断が求められます。
診断と治療方法
細胞診では診断精度が低いため、針生検が行われることが多いですが、針生検の結果が良性であっても急速に増大してきた場合には、切除生検を検討しなければなりません。
腫瘍のみの手術では再発することが多いため、周囲組織を含めた乳房部分切除、あるいは乳房全切除を行います。(乳房全切除の場合、保険治療で乳房再建も選択できます)
乳管内乳頭腫
母乳が通る「乳管」に生じる良性の腫瘍です。大きくなると、しこりとして自覚症状が認められることもあります。乳頭からの分泌液が主症状です。
30代~50代の女性によく見られる病気です。
症状や痛みは?
乳首からの分泌物が主な症状です。血液の混じった分泌液や透明の分泌液、黄色っぽい分泌液が認められることもあります。
- 乳頭からの分泌液
- 「乳頭近くのしこり」として触知する場合あり
原因
はっきりとした原因は分かっていません。ただし、女性ホルモンのバランスが関係しているとの指摘があります。
乳管内乳頭腫は乳がんになる
リスクがある?
通常、乳管内乳頭腫が乳がんのリスクを高めるということはありません。
ただし、異型乳管過形成や非浸潤性乳管がんを合併する場合があります。
乳管内乳頭腫が疑われる場合
乳管内乳がんとの鑑別が難しい場合や、異型乳管過形成や非浸潤性乳管がんを合併する乳頭腫の可能性もあるため、針生検の適応になります。微小な病変で針生検が困難な場合には超音波ガイド下吸引式組織生検を行うこともあります。乳管内乳頭腫の確定診断が出れば、その後は経過観察を行います。
血液の混じった乳頭分泌が続くケース、悪性の可能性が残るケースでは、診断を兼ねて手術(乳管腺葉区域切除)を行うこともあります。
治療・手術の方法
手術では、乳管腺葉区域切除を行います。責任乳管に染色液を注入し、乳輪に沿って切開を加えて責任乳管と染色された乳腺(腺葉)を摘出します。多少の乳房変形が生じることが多く、また悪性であった場合は断端陽性(病変が取り切れていないこと)で追加切除が必要となるため、最近では超音波ガイド下吸引式組織生検を行うことが多くなっております。
当院ではデヴィコアメディカルジャパンのマンモトームエリートを用いた超音波ガイド下吸引式組織生検を行うことができます。
乳がん
乳腺に発生する悪性腫瘍です。
症状として、乳房のしこり、痛み、乳頭からの分泌、乳頭・乳輪のただれやかゆみ、乳房のくぼみ・腫れなどを伴います。
早期発見・早期治療により、良好な結果が得られます。早期発見のためには、定期的な検診とセルフチェックが非常に重要です。